相続分

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相続分



相続分とは、同順位の相続人が数人ある場合における相続財産に対する各人の分け前の割合をいいます。相続分には、その決定方法の違いにより、法定相続分指定相続分とがあり、法定相続分は、民法の定めによって決定される相続分をいい、指定相続分は、被相続人の「遺言」によって指定する相続分をいいます。

法定相続分

民法900条には、被相続人が遺言で相続分を指定しなかった場合の法定相続分が定められています。

民法第900条(法定相続分)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

  1. 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
  2. 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
  3. 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
  4. 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。

上記規定を表にすると以下の通り。

法定相続分

指定相続分

民法902条には、指定相続分について定められています。

民法第902条(遺言による相続分の指定)

  1. 被相続人は、前二条の規定(民法900条法定相続分の規定)にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
  2. 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。

被相続人は、「遺言」で共同相続人の相続分を指定することができます。指定の方法は、「長男3分の2、次男3分の1」と割合で指定することや、「長男には不動産、次男には預金」というように定めることができます。また、相続分の指定を第三者に委託することもできます。この第三者は相続人や包括受遺者は含まれないとされています。これらの者は、相続分の指定について利害関係を有するので、不公平な指定をして他の相続人を害するおそれがあるからです。

特別受益者の相続分

特別受益者については、民法第903条に規定があります。

民法第903条(特別受益者の相続分)

  1. 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
  2. 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
  3. 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

特別受益者は、被相続人から、相続分の前渡しと見られるような生前贈与や遺贈を受けた者のことを指します。このような者は、二重の利得をし、相続人間で不公平な結果を招くことになり、また、被相続人の意思にも反するとも考えられるので、民法はこのような場合の相続分の算定について規定を置いています。


特別受益の範囲
特別受益となるのは、相続人が被相続人から受けた遺贈と、相続人が被相続人から生前に、婚姻・養子縁組のため、もしくは生計の資本として受けた贈与があたります。ここでいう生前贈与は、贈与全てではなく、「婚姻養子縁組のため、もしくは生計の資本として受けたもの」に限定されます。生計の資本としての贈与は広く、生計の基礎として有用な財産上の給付を意味し、大学の学費・入学金、生命保険・死亡退職金があたります。特別受益にあたるかどうかで争いがあるものに、共同相続人中の1人が受取人とされた生命保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金があります。判例では、特別な事情が存する場合は別として、特別受益にあたらないと解しています。
(特別な事情は、下記判例をご覧ください。)

判例要旨【最決平成16年10月29日】
養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。
もっとも,上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は,被相続人が生前保険者に支払ったものであり,保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。
上記特段の事情の有無については,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。



特別受益の評価
特別受益としての生前贈与については、それが相続開始前のものであるため、その価額評価の基準時が問題となりますが、相続開始の時が基準になります。受遺者の行為によって贈与の目的である財産が滅失、またはその価格の増減があったときでも、相続開始の時においてなお原状のままであるとみなして評価します。

 (例)

  1. 贈与当時1,000万円の土地が相続開始時に1,500万円であれば、1,500万円として評価する。
  2. 受贈者が被相続人から生前贈与で受けた建物を取り壊したり、焼失させたり、売却した場合には、贈与当時の状態のままであるものとみなして評価する。
    一部取り壊しや、増改築などによって価格の増減がある場合も同様。

特別受益者の具体的相続分の算定方法
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、特別受益とみられる贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし(みなし相続財産という。寄与分権利者がいるときは、寄与分の価額を控除する)、これに指定、法定相続分を乗じて特別受益者の相続分を算出し、これから遺贈・贈与の価額を差し引いたものが、その特別受益者の具体的相続分となります。

【算定方法】

特別受益算定

上記のように、具体的相続分を算出した結果、特別受益者の相続分の価額が受益額より多いときは、その差額が特別受益者の具体的相続分の価額となります。これに対して、特別受益の価額が相続分の価額に等しいか、又はこれを超えるときは、特別受益者はその相続分を受けることができません。


<具体例>

【関係図】
関係図



甲乙夫婦に、子A、B、Cがおり、甲が「現金」1000万円を残して死亡し、相続が開始した場合に、子のうちCは甲から生前に生計の資本として200万円の贈与を得ていたとすると、各相続人の具体的相続分は下記のようになります。


〈相続財産が現金の場合〉

みなし相続財産 法定相続分 具体的相続分
1000万円 + 200万円  × 1/2 =600万円
1000万円 + 200万円  × 1/2 × 1/3 =200万円
1000万円 + 200万円  × 1/2 × 1/3 =200万円
1000万円 + 200万円  × 1/2 × 1/3 - 200万円 =0円

甲の相続財産が、価額1000万円の「不動産」である場合の持分の計算は次の通りです。


〈相続財産が不動産の場合〉

法定相続分 具体的相続分(持分)
1/2 = 3/6 3/5
1/2 × 1/3 = 1/6 1/5
1/2 × 1/3 = 1/6 1/5
1/2 × 1/3 = 1/6 0

上記の計算は、特別受益者の相続分は、他の相続人の相続分の割合に応じて(この場合、Cの相続分1/6を、乙:A:B=3:1:1の割合で分ける)他の相続人に帰属するという意味です。


特別受益の価額が相続分の価格を超える場合
特別受益の価額が相続分の価額を超える場合、特別受益者は、この超えた部分について、他の相続人に償還する義務を負いません。


持戻しの免除

特別受益の持戻し(特別受益とみられる贈与を相続開始時に被相続人が有する財産に加えること)は、被相続人の通常の意思の推測という面を有するので、被相続人が民法の規定と異なった意思表示(特別受益の持戻し免除)をしたときは、その意思表示は遺留分のに関する規定に違反しない範囲内でその効力を有します。
被相続人が、特別受益の持戻しの免除の意思表示をした場合、各人の具体的相続分の算定にあたって特別受益は考慮されません。
持戻しの免除の意思表示の方式は、とくに規定がないので、生前贈与については遺言に限られませんが、遺贈については、遺言によってなされる以上、免除の意思表示も遺言によってなされる必要があります。

寄与分

寄与分とは、特定の相続人が、被相続人の財産の維持または形成に特別の寄与、貢献した場合に、寄与した相続人を、寄与や貢献のない他の相続人と同等に取り扱い、法定相続分どおりに分配するのでは、公平を失することになるので、寄与者に対して寄与に相当する額を加えた財産の取得を認めるという制度です。寄与、といえるためには、寄与行為の存在によって、被相続人の財産の維持又は増加があること、寄与行為が特別の寄与といえることが必要です。

寄与分権利者の範囲
寄与分を受けられるのは、共同相続人に限られます。被相続人と同居して特別の寄与があったとしても、内縁の妻、事実上の養子、被相続人の子の配偶者などは寄与分を受けることができません。内縁の妻、事実上の養子などに、遺産を渡したい場合は、生前贈与か遺贈でする必要があります。

寄与の態様、程度
寄与の態様としては、次のものが挙げられます。

  1. 被相続人の事業に関する労務の提供、財産上の給付
  2. 被相続人の療養看護
  3. その他の方法
    寄与の時期は、相続開始前に限られます。相続開始後、遺産分割までに相続人の1人が相続財産の維持又は増加について特別の寄与をしたとしても、これについては寄与分を取得することはできず、相続財産の管理に関する費用として別途清算することになります。寄与の程度は、民法では、寄与を通常の寄与と特別の寄与に分けており、寄与分を受けられるのは特別の寄与をした場合に限っています。夫婦間の協力・扶助義務の履行や親族間の扶養義務の履行等は通常の寄与ですので、妻の通常の家事労働は通常の寄与として寄与分の対象にはなりません。

寄与分の決定手続
寄与分を決定する方法は、相続人間の協議、審判、調停の3種ありますが、原則として遺産分割協議の中でなされます。遺産分割協議は相続人全員が合意しなければなりませんので、寄与分を認めない他の相続人がいる場合は調停・審判を経る必要があります。

寄与分の限度額
寄与分の上限について、民法904条の2第3項は「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。」と規定しています。つまり、被相続人が遺贈をしている場合には、被相続人の意思を尊重して寄与分よりも遺贈が優先するということになります。

寄与分権利者の具体的相続分の算定方法
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から、特別の寄与をした者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし(みなし相続財産)、これに、指定、法定相続分を乗じて寄与者の相続分を算出し、これに寄与分を加えた額がその者の具体的相続分となります。

【算定方法】

寄与分算定

例えば、甲が、現金1000万円を遺して死亡し、相続が開始したとき、相続人が配偶者乙、子A、B、Cとし、Cの寄与分が100万円とされたとすると、各相続人の具体的相続分は次のようになります。

〈相続財産が現金の場合〉

みなし相続財産 法定相続分(+寄与分) 具体的相続分
1000万円 - 100万円  × 1/2 =450万円
1000万円 - 100万円  × 1/2 × 1/3 =150万円
1000万円 - 100万円  × 1/2 × 1/3 =150万円
1000万円 - 100万円  × 1/2 × 1/3 + 100万円 =250万円

甲の相続財産が、価額1000万円の不動産である場合の持分の計算は次の通りです。


〈相続財産が不動産の場合〉

具体的相続分(持分)
450/1000  = 9/20
150/1000  = 3/20
150/1000  = 3/20
250/1000  = 5/20


相続分の譲渡、取戻し

相続分の譲渡
相続分の譲渡とは、各共同相続人が相続財産全体に対して有する包括的な持分あるいは法律上の地位を第三者に譲渡(売買・贈与)することをいいます。相続開始から、遺産分割までに時間を要するので、早急に相続分を換価処分したいという相続人の利益を考慮して認められるものです。相続した不動産や、現金、その他の動産など個々の財産やそれらの権利についての持分等を譲渡することとは異なりますので注意してください。
相続分の譲渡は、共同相続人以外の第三者以外にも認められます。共同相続人以外の第三者に相続分が譲渡されると、その第三者は遺産分割を請求する権利を有しますので、その相続分を譲受けた第三者を除いて遺産分割協議をしても無効となってしまいます。

相続分の取戻し
共同相続人の1人が遺産の分割前にその相続分を他の共同相続人に無断で第三者に譲渡したときは、他の共同相続人は1ヶ月以内その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができます。相続分が第三者に譲渡されると、その譲受人は遺産の管理や分割の手続に参加できるため、トラブルが生ずる可能性が高いことから、トラブルを避けたい他の共同相続人の利益のため、その取戻しを認めた規定です。なので、他の共同相続人に相続分の譲渡がされた場合には相続分の取戻しはすることはできません。

共同相続人以外の第三者へ相続分の譲渡がされた場合の不動産手続
共同相続人以外の第三者へ相続分の譲渡がなされた場合、相続財産中に不動産がある場合は登記手続きが必要になりますが、被相続人からその第三者へ直接登記名義を移すことはできません。例えば、被相続人甲に共同相続人A、B、Cがいたとして、Cがその相続分を第三者Dに譲渡した場合、所有権移転登記(相続登記)で直接、A、B、Dの共有名義にすることはできません。一度、A、B、Cでの共同相続登記をした後、C持分について相続分の譲渡(売買・贈与)を原因とする移転登記をする必要があります。



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