遺産分割協議

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遺産分割協議



相続人が確定し、相続財産の調査も完了すれば、相続人全員で相続財産をどのように分配するのかを協議します。相続放棄した者は、最初から相続人でなかったとみなされるので、遺産分割協議には参加しません。遺産分割協議は相続人全員の合意があれば、相続財産を自由に分割することができます。

たとえば、長男が跡取りとして全部相続したいと主張した場合に、他の相続人全員が同意すれば全財産を相続することも可能です。現在では、旧民法で定められていた家を受け継ぐという制度(家督相続)は廃止されていますが、実際のところ家業を継ぐ長男が事業に供している不動産など営業に必要な財産を引き継ぐのが妥当だということは多々あります。遺産分割協議書は、不動産登記手続、被相続人の預金の払戻、その他さまざまな名義変更などの場面で必要となる重要な書類です。
ただし一人でも同意しない相続人がいる場合は、遺産分割協議は成立せず、いつまでも遺産の分割はできないこととなります。いつまでも協議が完了する見込みがないときは、家庭裁判所に遺産分割の調停または審判の申立てをしなければならなくなります。また、相続人の1人が行方不明であるとか、未成年者であるとか、遺産分割協議ができないという場面はさまざまです。

遺産分割の自由と制限

共同相続人は、原則として、いつでも、その協議で遺産分割をすることができます。しかし、この自由には一定の制限があります。


遺言による分割禁止
被相続人は、遺言で遺産の分割を禁止することができます。被相続人は、遺産全部、または特定の遺産について分割を禁止することができます。分割禁止期間は、相続開始の時から5年以内に限られ、共同相続人全員の合意があったとしてもその期間内は分割することができません。

審判による分割禁止
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議することができないときは、各共同相続人はその分割を家庭裁判所に請求することができますが、家庭裁判所はこの遺産分割の審判の申立てがあったときでも、特別の事由があるときは、期間を定めて遺産の全部又は一部について分割を禁止する審判をすることができます。

協議による分割禁止
共同相続人間の協議によって、遺産の分割を禁止することができます。この協議による分割禁止は、遺言による分割禁止と異なり、禁止期間中でも共同相続人全員の合意があれば協議を解除して分割することができます。

遺産分割の方法

遺産分割には、指定分割協議分割審判分割の3つがあります。

指定分割
指定分割とは、被相続人が遺言書で遺産の分割方法を指定した場合、または、遺言で第三者に遺産の分割方法を委託した場合を指します。遺言書で相続財産の分割が指定されている場合は、遺産分割協議を経ることなく相続財産の承継がが生じます。

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協議分割
協議分割とは、遺言がない場合に共同相続人の協議で遺産分割をする方法です。協議した内容は、遺産分割協議書を作成し、協議に参加した共同相続人は実印で押印します。この遺産分割協議書は、さまざまな手続の場面で使用される重要な書類です。不備のない遺産分割協議書を作成しなければなりません。相続人のうちの1人でも協議に参加しない(できない)、または協議内容に同意しないような場合は次に述べる、審判分割の手続によることになります。

調停・審判分割
共同相続人間の遺産分割協議が調わないとき、または協議ができないときは、各共同相続人は単独もしくは共同でその分割を家庭裁判所に請求することができ、調停または審判によって分割が行われます。

遺産分割協議で問題となる点

遺産分割協議の場面では、様々な問題が発生することがあります。具体例をいくつかあげて対処方法を以下に解説します。

相続人の1人が行方不明のとき
相続人の中に行方不明者がいると、遺産分割協議ができません。その行方不明者を除く相続人間で遺産分割協議をしたとしても、有効な協議とはいえませんし、登記手続きなども進めることはできません。このような場合は、不在者の財産管理人選任の審判を申し立て、不在者に代わって財産管理人が他の相続人とともに遺産分割協議をすることになります。不在者の財産管理人選任の審判は、家庭裁判所に利害関係人または検察官が申立てをします。不在者の財産管理人は、不在者の財産の管理行為をすることはできますが、処分行為をすることはできませんので、遺産分割協議書作成前に権限外行為許可審判を得ている必要があります。

【管理行為】
財産を現状において維持し、また、財産の性質を変更しない範囲で利用・改良を目的とする行為。

【処分行為】
財産の現状または性質を変更したり、家の売買などのように財産権の法律上の変動を生じさせたりする行為。

権限外行為許可審判とは、管理行為しかできない不在者の財産管理人に家庭裁判所が権限外の処分行為をすることを許可するものです。これにより、遺産分割協議を有効に成立させることができるようになります。権限外行為許可審判は、財産管理人を選任した家庭裁判所に財産管理人が申立てます。

相続人の1人が未成年者であるとき
被相続人が若くして亡くなると、相続人である子が未成年者ということもあります。被相続人に妻と未成年の子がいる場合、遺産分割協議は妻と未成年者の子がすることになりますが、親権者である妻とその親権に服する子との遺産分割協議は利益相反行為となります。妻と子が同時に相続放棄する場合や妻(親権者)が先に相続放棄しているような場合は利益相反行為になりませんが、親子で遺産分割協議をする場合は、子について特別代理人を選任しなければなりません。(未成年の子が複数いる場合は、その人数に応じた特別代理人の選任が必要です。)未成年者の特別代理人とその他の相続人で遺産分割協議をすることになります。特別代理人選任審判申立ては、未成年者の住所地の家庭裁判所に、未成年者の法定代理人(親権者等)が申立てをします。

相続人に判断能力がない人がいるとき
相続人の中に、高齢で認知症の人や、精神上の障害で判断能力を欠く常況にある人がいる場合、有効に遺産分割協議をすることができません。このような場合は、成年後見開始および成年後見人選任の申立てをする必要があります。

相続人の1人が海外在住であるとき
相続人の中に海外居住者がいる場合は、印鑑証明書の代わりにサイン証明書を添付して遺産分割協議書を作成します。
サイン証明書は日本領事館等に請求して発行してもらいます。

遺言と異なる内容の遺産分割を行いたいとき
遺言の効力は、遺言者死亡の時から効力が発生するので、遺産分割協議をすることなく遺言の内容にしたがって相続財産の帰属が定まることになります。しかし、遺言があっても、相続人全員の同意がある場合には、遺言と異なる遺産分割をすることができます。相続財産の帰属に関する遺言には、遺贈遺産分割の方法の指定があり、遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります。

【包括遺贈】
遺贈の目的の範囲を、遺贈者が自己の財産全体に対する割合で表示した遺贈。例として「遺産の2分の1を○○さんに遺贈する」というような場合を指します。

【特定遺贈】
遺贈の目的を特定して表示した遺贈。例として「自宅の土地建物を○○さんに遺贈する」というような場合を指します。



包括遺贈がなされたとき
包括遺贈がなされたときには、包括受遺者と相続人が遺産分割協議をすることになります。包括受遺者は相続人と同様に相続放棄することができますので、包括受遺者が相続放棄を行うことで、遺言内容と異なる遺産分割を行う余地はありますが、相続放棄を行うと、初めから相続人とならなかったものとみなされるので、包括受遺者は遺産を全く取得することができなくなります。このような場合、包括受遺者の取り分を全てなくし、他の相続人が全ての遺産を遺産分割により取得することは可能ですが、包括受遺者にも一部財産を取得させるような遺言と異なる遺産分割はできないということになります。

特定遺贈がなされたとき
特定遺贈の効力は、遺言者死亡時に当然に効力を生じますが、特定受遺者は、遺言者の死亡後いつでも遺贈の放棄をすることができます。遺贈の放棄がなされると、その放棄の効力は遺言者死亡時にさかのぼって生じますので、特定受遺者が受けるべきであった財産は相続人に帰属します。相続人に帰属した相続財産を、遺産分割協議で自由に決めることは可能です。
(特定受遺者が相続人の1人であった場合は、放棄後その特定受遺者であった相続人も遺産分割協議に参加します)

遺産分割方法の指定がなされたとき
遺産分割方法の指定がなされたときは、当該遺産は遺言者死亡時に直ちに相続により指定されたとおりに承継されます。
しかし、相続人全員が、遺言内容と異なる内容の遺産分割を成立させる意思を有している場合には、遺言と異なる遺産分割をすることができます。遺言執行者がいる場合には、たとえ相続人全員の意思が合致しているといっても、遺言執行者を無視することはできず、遺言執行者の同意も必要となります。

遺言内容と異なる遺産分割協議書の作成上の留意点
遺言内容と異なる遺産分割協議書を作成する上では、遺言の存在とその内容を認識していることを明らかにしておく必要があります。遺言の存在を知らない相続人が存在すると、たとえ遺産分割の内容自体について全相続人間で協議が調ったとしても、遺言内容と異なる遺産分割をするという点についての合意が成立しているとはいえません。遺言の内容を知らずに遺産分割協議書に署名押印した相続人が、遺言の存在を知っていれば遺産分割協議の内容に合意しなかったであろうというような場合、錯誤による意思表示として遺産分割協議が無効になってしまうことになります。遺言内容と異なる遺産分割協議書には、遺言の存在とその内容を明記した上で、相続人全員の合意で遺産分割協議をした旨をあきらかにしておくことが重要です。

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議で共同相続人全員が合意したら、その合意した旨が記載された「遺産分割協議書」を作成します。

【遺産分割協議書記載例】
※ 遺産分割協議書の一例です。

遺産分割協議書

 共同相続人である私達は、次の相続について、下記のとおり遺産分割の協議をした。

被相続人の本籍   沖縄県A市B町一丁目123番
最 後 の 住 所     沖縄県A市C町二丁目23番
氏     名       沖 縄 太 郎
相続開始の日     平成XX年X月X日

1.次の相続財産は、相続人沖縄一郎が相続する。
【土地】
所 在  沖縄県A市B町一丁目
地 番  123番    
地 目  宅 地
地 籍  234㎡56

所 在  沖縄市B町二丁目
地 番  987番
地 目  畑    
地 籍  2345㎡

【建物】
所 在    沖縄県A市B町一丁目123番地
家屋番号  123番
種 類    居 宅
構 造    鉄筋コンクリートブロック造陸屋根平家建
床面積    123㎡45

2.次の相続財産は、相続人沖縄次郎が相続する。
【土地】
所 在  沖縄県C市D町三丁目
地 番  456番    
地 目  宅 地
地 籍  1111㎡22

所 在  沖縄県E市F町四丁目
地 番  654番
地 目  山 林    
地 籍  2345㎡

3.次の相続財産は、相続人沖縄花子が相続する。

【銀行預金】
沖琉銀行XX支店 定期預金 金888万円
4.今後判明したる財産(債務を含む)は、相続人沖縄一郎が相続する。
以上の協議を証するため、この協議書を作成し、各自署名押印する。

平成   年   月   日

 住 所   沖縄県A市B町一丁目123番地

 氏 名      沖 縄 一 郎    実印


 住 所   沖縄県G市H町二丁目246番地

 氏 名      沖 縄 次 郎    実印


 住 所   沖縄県I市J町三丁目963番地

 氏 名      沖 縄 花 子    実印




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